Dr.Mの入れ歯小話-りんご歯科医院|新潟市中央区の歯科・歯医者

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診療時間:月~金 9:00~18:00(土曜は17:00まで)休診日:日・祝

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Dr.Mの入れ歯小話~入れ歯専門外来に来られる方たちの症例を通して~

はじめに

皆さんは、不幸にして歯を欠損した時にそこはどうなるのだろうかと考えますよね。
きっとすぐに頭に浮かぶのは、入れ歯だと思います。入れ歯が自分のものになるまでは、確かに大変です。
それに取って代わろうとして近年は歯科インプラントが持てはやされておりますが、これには様々なリスクがありますよね。例えば、どうしても欠損部分の歯茎に人工歯根を植え込むため、手術が必要なのでお年寄りや全身疾患を抱える人には不向きですし、多数歯に渡る場合はリスクがありますね。
また、人工歯根を植え込むための骨が少ないようであれば、そのために骨を増やす手術が必要であったりすることもあります。そうなると、2回ほど手術を行はなければならないこともあるため、肉体的にも精神的にも、そして経済的にも大きな負担があったりします。
無事にインプラントの処置が完了しても、処置後のケアはかなり大変です。インプラント処置後に新たな病気としてインプラント周囲炎のリスクを抱えることにもなりますしね。もちろんメリットも多くあるので否定はできませんが、かなりの覚悟は必要かと思います。
その点、入れ歯であればどのような欠損症例にも対応はできますし、手入れもそれ程、煩わしくないと思います。まして、入れ歯が痛くてご飯が食べられないことがあれば、外して柔らかいものをとりあえず食べてもらって、予約の日に調整という事でいいかと思います。
もし、これが埋入したインプラント部分が痛いという事になるようなら施術した先生も大変ですよね。心休まる日がないのではないでしょうか。

僕はもともと入れ歯治療がやりたくて歯科医師になったわけではありません。
実家は歯科医院を営んでおりました。歯科医師を志したのは、実父が歯科医師でしたので子供のころから歯科医師になるものだと刷り込まれていたような気がいたします。そして、高校に上がり、いざ大学受験を考えた時、獣医もいいなと思うことがありました。そこで家族会議を開いてそのことを父に伝えると、父からは大反対を受けた記憶があります。父の中には僕が必然的に歯医者になるという事を頭の中で描いていたのでしょうね。
後で聞いた話ではありますが、一緒に働いてみたかったと言っていました。

でも、ある意味親の期待通りに歯学部に進んで、順調に留年することもなく気づいたら臨床実地を行う6年生になっておりました。
思い起こせばこの歯学部の6年生であった頃、総義歯学実習といって2時間半で人工歯を排列する試験があったのですが、自分で他人の咬み合わせを作る作業に凄く興味を持ちました。でも、歯科医師として自分がやりたいのはこれだという感覚が学生ながらにありました。そして僕は、卒業後、この総義歯学講座という大学病院の総入れ歯の講座に大学院生として入局し、その後、助手を経て講師となり10年間在籍していました。入局時から、教授や助教授、先輩医局員に徹底的にしごかれましたよ。患者さんも今では信じられないくらい大らかで、型取りで失敗しても嫌な顔をすることなく、何度でも型を取らせていただきました。一人の患者さんに最低1時間は診療時間を取り、入れ歯製作のために頑張ってきましたよ。診療が終わってからも、技工操作をして遅くまで総入れ歯の人工歯排列や重合操作をしていました。それこそ帰る時間も午前様でした。
現在、僕が在籍していた日本歯科大学新潟歯学部付属病院の総入れ歯の講座は部分入れ歯の講座と合併吸収してしまい、有床義歯学講座となってしまいました。この有床義歯学講座と私は関係がありませんが、今でも臨床研修医に、指導をするために日本歯科大学新潟病院総合診療科の臨床講師として研修指導をさせていただいております。

正直入れ歯の患者さんは年々少なくなっており、総入れ歯となるとその数は極端に減っています。
大学病院の総入れ歯の講座がなくなってしまったのも、その数が減ってきたことも一因なのではないでしょうか?
しかしながら、総入れ歯やそれに近い部分入れ歯でお困りの方はいなくはないのです。
入れ歯で困っている患者さんは、開業医が駄目ならば大学病院に希望を持って行くことを考えるかと思いますが、大学病院でも入れ歯を専門としていた先生は大分少なくなっております。そのため、入れ歯専門の先生は多くの患者さんを抱えることになり、予約も1~2ヶ月先になり治療があまり進まないようです。まして、そのような先生は日常の主要な業務としては診療以外に、学生教育や研究に励むことも必要ですから、診療そのものに携わる時間は極端に少なくなります。そこで担当になるのは、入れ歯治療の経験が乏しい若い先生になり、ここでもやはり上手くいかないことが多々あるようです。
また、現状の保険診療は入れ歯診療の点数はかなり低く設定されており、あまり患者さんが満足いくまで治療に力を入れる先生も少ないのも一端にある気もします。

本文では当院での入れ歯専門外来に来られた方の治療を通してのエピソードについて、症例を通してお話していきたいと思います。

いろいろな入れ歯の種類と呼び方

大まかにいうと入れ歯には部分入れ歯総入れ歯があります。
部分入れ歯は一部分の欠損に対して入れる入れ歯で、一本でも歯が残存していれば部分入れ歯といえます。全て歯を欠損した場合の入れ歯は総入れ歯というわけですね。
また、残根という残存歯の根の上に乗る入れ歯を残根上入れ歯と言ったりもします。抜歯してすぐに入れる入れ歯を即時入れ歯と言い、一時的に入れる入れ歯を暫間入れ歯、恐らく抜歯になるであろうと予想する歯があって抜歯後、すぐ対処ができるようにしておくための入れ歯を移行入れ歯ということもありますよ。
呼び方は、その入れ歯の形態や、目的に対しても変わるのですね。

スーツ姿で来る患者さん

ある患者さんから歯槽膿漏が酷く、全部歯を抜いて入れ歯にしてほしいという要望がありました。
その患者さんは新潟県の中でも大きな会社の部長さんのようで、スーツ姿で来院されてきました。身なりには非常に気にかけているようなお洒落な雰囲気のある患者さんでした。
口腔内診査をしてみると、大きなロングスパンのブリッジが上下顎に装着されており、パッと見は28本の歯があるように思えましたが、それを支える支台歯は重篤な歯周病でした。確かに歯周病は酷く、患者さんが抜歯希望だとしても、保存できる歯は極力保存しようと診断を明確にし、その結果何とか保存が可能な歯が上顎は左側第二大臼歯という奥歯1本と、下顎はいずれも左側で側切歯と犬歯、第一小臼歯の3本で、計4本の歯のみでした。
患者さんは抜歯依頼で来ているので、歯を抜くことに関しては完全に納得しているのですが、歯がなくなった状態がしばらく続くようでは会社に行けないので、そうならないように何とかしてほしいとおっしゃっていました。

本来、入れ歯は歯を抜いた後に傷が落ち着いたのを見て、歯茎が回復したのを確認してから入れ歯の型取りをするのですが、このような方の場合、歯を抜く前に型と咬み合わせを取ってしまい、模型を起こして咬合器に装着し人工歯の排列から完成までしてしまいます。
そして、抜歯した直後にその入れ歯を装着するという方法があります。これは即時入れ歯と言われるもので、抜歯後に歯がないような状態を回避することが可能です。
しかしながら、このような入れ歯は様々な問題が起きやすいものです。
というのは、歯茎の回復はあくまで予想して作っていますし、咬み合わせの調整も麻酔が作用しているためあまりうまく咬めないので調整が困難です。
また、何より抜歯後、その傷の上に入れ歯が乗るため咬合すれば圧力がかかります。そうすると、どうしても痛みが生じやすいのですね。まして、このような方のように多数歯に渡る抜歯の場合は、装着する入れ歯も大きなものになります。そのため、初めて入れ歯を入れる方にはお勧めしにくいものなのです。
でも、やらなければいつまでも先に進まないのも事実ですので、患者さんにこの旨を提示させていただきました。患者さんは、今まで入れ歯を入れたことがないので、イメージが湧いていないようでしたが、できるだけの説明をさせていただき了承を得ました。
ただ一気に上下顎の残存歯を抜歯して、そこに大きな入れ歯を装着するのは、かなり患者さんは大変な思いをしてしまうのが予想されたため先ずは下顎の方から行うことを決めました。
診査後、入れ歯製作のための1日目は、上下顎の型取りと咬み合わせ取りをしました。咬み合わせ取りは無歯顎に近い状態になると、かなり困難になるケースが多いのですがこの時点では、歯が残存していますので、咬み合わせ取りは非常に簡単です。そして、次回に下顎の歯を抜歯し下顎の即時入れ歯を入れる予定を伝えました。
そして、即時入れ歯を準備しておいて2日目に下顎の保存が無理な歯に麻酔をかけて抜歯し、その傷を縫合後、入れ歯を装着してみると咬合がちょっと高いようですので、調整してバランスを取りました。
麻酔が徐々に切れてきたようで、少し入れ歯を垂直方向に力をかけるとやはり痛みがあるようでした。そのため、少しでも痛みを和らげるために粘膜調整剤とよばれるクッションを入れ歯の内面に敷きました。
入れ歯の処置はとりあえず、これで終えて感染予防のための抗生剤と痛み止めを出して、本日は終了となりました。

一週間ほど開けて、予約を取らせていただき3日目は傷の消毒をし、治り具合を確認しました。
完全に傷が塞がっているわけではありませんが、もともと重度の歯周炎であったため歯肉や骨との結合は浅く、傷は小さいので治りも良かったです。縫合してあった糸を取り、入れ歯の具合を聞いてみるとやはり違和感は強く舌が動かしにくいため話しにくいとのことでした。
もう一度、入れ歯内面の粘膜調整剤を張り替えて安定を図ることとしました。舌側の床外側面も調整させていただき、舌のきつさもある程度、解消しました。
そして4日目に上顎の歯を多数歯に渡り抜歯しました。上顎は左側の奥歯(第二大臼歯)のみ保存し、他の欠損部位は即時入れ歯で覆われることになります。前回の処置で下顎の即時入れ歯は、ある程度安定していることは確認できたので上顎の即時入れ歯をセットすることに踏み切ったのですが、ある程度予想していたとはいえ、上下顎の即時入れ歯を調整するのは困難を極めました。
まずは、入れ歯を口腔内にいれてしっかり入ることを確認し咬合させてみます。この際に、多数歯の抜歯をしているために麻酔が広範囲に効いています。そうなると、咬合の感覚もなんかおかしくなり、上手く咬めないことが多いです。
従って、ある程度の所で咬合調整をします。その後、義歯の内面を調整し局所に強い圧力がかかっていないかの確認をしました。何か所かその強い圧力がかかっている部位が入れ歯の内面に認められたので、そこを削除・調整しました。その後、粘膜調整剤を内面に敷いて抜歯窩に多少の圧力がかかっても痛みが出にくいように配慮しました。
本人は今回、初めて入れ歯というものを入れてこちらの説明していた本当の意味での違和感や痛みを気づいたと思います。
入れ歯である以上、冠やブリッジのように固定性ではなく着脱式になるのでその煩わしさや、管理・清掃の難しさはあります。自分のものになるまでは、相当の苦痛にも耐えなければならないと思います。義手や義足も同じかと思いますが、慣れるのは本当に大変です。

でも、それを乗り越えるために、僕はできるだけの補助をしていく所存ですよ。

金属床義歯希望の患者さん

金属床入れ歯は、上顎の場合は口蓋部分が金属で、下顎の場合は舌側の歯肉部分が金属で覆われています。金属であるため熱の伝導性は非常に良いですし、何より壊れにくいです。
これにより口蓋の床部分は薄くできるので、違和感はかなり減らすことができます。口の中が広くなったようで、発音もしやすくなり舌感も凄く良いです

この金属床といわれる金属には主にゴールドやチタン、コバルトクロム、金銀パラジウム等があります。当院ではゴールド、チタン、コバルトクロムの3種類を選べるシステムを取っていますが、金属それぞれに重さがあります。この中で一番軽い金属はチタンです。チタンはインプラントなどにも使用される金属で、生体親和性が良い金属として知られています。この金属は、技工操作としてはなかなか難しく扱いにくい面があるようでしたが、近年はその操作性もアップし頻繁に使われるようになりました。
コバルトクロムはこの中では重い金属となり、色も若干黒くなりやすい欠点があります。金属アレルギーのある方には使用しにくい金属です。

ここであるエピソードを紹介いたします。

この方は、上下顎の入れ歯を作り直してほしいという依頼で当院を受診されました。上顎は全ての歯が欠損しており、下顎は臼歯部が欠損となり、前歯部が残存しているような状態でありました。ご使用中の入れ歯を見させてもらうと、上下顎とも保険診療で製作されたと思われるレジン床(プラスチック)の入れ歯で、入れ歯の中央部分に金属の補強線といわれるものが入っていました。この患者さんは何度か上顎の入れ歯が割れてしまい、以前の歯科医師に相談したところ、この金属を入れていただいたとのことでした。でも、あくまで周りはレジンというプラスチックで囲まれているため、その効果はあまりないと言っていいかと思います。このような方には、本来はこの金属床入れ歯が一番いいのは前の歯医者さんも解っていたことだと思いますが、保険診療は適応外になるため勧めにくかったのではないでしょうか?僕も、かつてはそうでした。でも、患者さんにとって値段は関係なく、一番いいと思うものを提示するのも歯科医師の役目と考えます。

実際にこの患者さんに説明してみると、「あ、そのような入れ歯があるんですね。流石に上下顎作るとなると、お金がないので上顎だけ作りたい」とおっしゃっていました。そのため、上顎は金属床の総入れ歯とし、下顎は保険診療で作る部分入れ歯とすることになりました。
通常通り上下顎の概形印象から始め、診療回数は6回ほどで完成となりました。その間の、仮合わせでかなり適合も良く歯並びも気に入っていただけたので、完成に持っていきましたが、口の中が広くなったと感激してくれましたよ。

他院で入れた入れ歯が合わない患者さん

この患者さんは、咬み合わせが悪くて入れ歯をして食べるどころか、入れていることもできないという事で当院を受診しました。
初診時の写真は残っていないのですが、まだ入れ歯を製作してそれほど時間が経っているようには思えないほどきれいなものだったので、この入れ歯をお作りになられた歯科医院さんで診ていただいたら良いのではないかとお話しさせていただきました。その時は、患者さんもそれもそうだなと言い、そこの医院に行かれて調整をしていただいたようです。

しかしながら、その患者さんは3日ほどして予約が入り、お口の中の入れ歯を見てみるとすごい状態になっていました。上顎全臼歯部の咬合面は即時重合レジンで足されており、入れ歯の前歯は歯の形がないほど削られていました。
この患者さんは「もう、あそこには行きたくない。先生のほうで新しい入れ歯を作ってくれ。」と言いました。よくよく聞いてみると上唇のツッパリ感が取れないと、そこの歯科医院さんに言ったらエンジンで入れ歯の前歯の表面を削りだし、このような状態になってしまったそうです。また、噛み合わせが安定しないと言ったら、入れ歯の噛み合わせの面にプラスチックを盛られたようです。恐らくこの先生は咬み合わせを直そうと必死だったのだなとは思いました。

先ずは、この入れ歯を何とか使えるようにと思い、咬合調整を徹底的にさせていただき入れ歯の内面に粘膜調整剤という、クッションを置かせていただきました。外形もかなり直させていただきましたが、口唇が張っているような感じが強いようです。
しかしながら、一回の治療で全てを満足させるようなことは、どうしても無理があるので時間がかかる旨を説明し、治療用入れ歯の提案をさせていただきました。

長年、上下顎の咬み合う歯を無くしたままでいると人は前後左右的に何処で噛んでいいのかが解らなくなることがあります。歯牙の欠損の状態で上下顎と咬み合う歯を無くした場合は、その状態が長く続くことによって何処で噛んでいいのかがわからなくなり、いざ、入れ歯を作ろうとしたときに患者さん自身でも良い位置が解らないため、咬み合わせを採得するのに非常に困難なケースがあります。

この患者さんもそのような状態にあり、咬み合わせを取る作業に難渋でした。また、この方は自由診療で金属床の入れ歯を入れたいとの希望もありました。
僕は一回の義歯製作で満足いくようなものを作るのは困難と考え、先ずは咬み合わせを修正するための治療入れ歯の製作を提案させていただきました。
そのため、保険診療内で入れ歯を製作させていただき、入れ歯の咬合関係を修正しやすい入れ歯を作り、安定したところで再度、金属床の新義歯を製作するというものです。
時間はかかりますが、この方がさらに良いものができ、咬合の安定を図ることができます。
なかなかこの提案を理解してくれる患者さんは少ないですが、この患者さんは、入れ歯を過去に何度作っても噛み合わせが上手くいかなくていろいろな歯科医院を渡り歩いていたようです。この提案をすんなりと理解していただけましたよ。
仮にこの入れ歯で満足してしまい、金属床の入れ歯はやっぱりいいやということに、もしかしてなるかもしれません。リスクはいろんな意味でありますが、患者さんが喜んでくれるよう頑張りたいです。

金属のバネがない部分入れ歯を希望の患者さん

保険診療の場合、部分入れ歯を製作する際は、残存歯に金属のバネを付けるようになります。
これは残存歯牙に固定源を求めるため致し方ないのですが、その残存歯牙がいわゆる前歯しかない場合は、その前歯にバネをかけることになります。
そのバネが見えてしまうのが嫌だと言う方は決して少なくないです。

少数歯の欠損であればインプラントが最適かもしれませんが、インプラントはちょっと怖いと言う人も多いですね。
当院ではインプラントを行うことはしていませんので、部分入れ歯でバネが見えないようにするには、ノンクラスプデンチャーというものをお勧めいたしております。
金属のバネに代わり、入れ歯の床といわれる歯肉に近い色の素材で歯間部分に挟まるような形で、維持を求めるものです。
保険診療内でこれを作ることは認められておりませんが、金属のバネを使用していないので、入れ歯だと分かりにくく非常に審美的です。
(写真の患者さんは臼歯部が欠損しており、今まで金属のバネが付いた入れ歯を装着していましたが、ノンクラスプデンチャーに変えたところ、バネが見えることもなく非常に満足していただけましたよ。)